三原順『はみだしっ子』より
「もうなにも・・・」〜グレアムの思いは〜
(初めに/大まかな状況説明)
[グレアム、アンジー、サーニン、マックスの4人の少年は、それぞれ親に愛されず、家を出て、一緒に旅をして暮らしていた。年上のグレアム、アンジーは、ある時から重大な秘密を抱え、マックスを守る為に、そのことを二人で隠し通す事にする。そこへ、グレアムの叔父を通して、誰かから、4人まとめて養子にしたいという話が来る。受けるかどうか、4人はそれぞれに迷うが・・・。]

●何を犠牲にしても、誰にも言えない秘密を隠し通そうとするグレアム。自分達はここまで深い罪と共にある存在なのに、それでも引き受けてくれる人がいるとは思えなかった。
グレアムは、大人がたかを括っているような、それ程単純な存在として扱われると、皮肉げにそれではその誰かさんは・・・あなたは・・・我々の秘密を知ってもそういう目で我々を見られるのか・・・!と詰め寄って、全てを暴いてしまいそうになる。それが自分だけの問題なら迷わず言ってしまったかもしれない。しかし、「しっかりしろ、グレアム」と自分を励ますのは、その罪に関わっているマックスを守る為だった。
代わりに人を納得させるだけの嘘をでっちあげる程、器用でもふてぶてしくも無く、その為に、何も言わないのを責められても何も言えない。
思い悩む事情を説明する為に話さねばならないなら、それならば、黙っていて軽蔑される方がよほどましだったのだ。それでもさっさとつきはなしてくれない叔父に対して憎しみが湧き起こらずにはいられない。
「さわるな!ボク達にさわるな!」
と、グレアムは心で叫ぶ。

自分達を愛してくれようとする人がいることはグレアムにもわかっている。だけど、一緒に有る罪ごと引き受けてくれる人がどこにいるだろう?と彼は思う。彼がそれを信じないのにはわけが有った。
「親でさえ信じないという子供」である自分が、他の人に信じられる存在であると思えるのか?グレアムは人々を信じていなかった。
しかしグレアムが更に恐れていたのは何だったのか。
敵対するものに対してかたくなに何かを守り通して来た。そのことで自分を保って来た。しかし、その必要が無くなったら・・・?
シールドをはずしてもいいよという状況になったら、一体どうなるのか?
しかもその相手が友人などの「他人」ではなく、「親」という立場であった時、自分は一体どうなるのだろう?
もしかしたらそれが「正しい」のかもしれない。信じるに足るものなのかもしれない。もしそうだったら・・・?

「 話を受けるなら
   ボク達は自分のうち
   何かが崩れ落ちる音を聞かなければならないかもしれないね
   アンジー!」

それは微かな希望であるのか、それとも底知れぬ恐怖なのか。
そうしてグレアムもまた、養子の話を受けることに決める・・・。

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