山岸凉子『妖精王』-Yamagishi Ryoko-
白泉社文庫(全3巻)1995年
あすかコミックス・スペシャル 山岸凉子全集第18〜21巻(全3)1986年〜

有名大学目指し名門高校に入学したものの、病気療養の為休学を強いられ、北海道へやってきた爵(じゃっく)。不本意な人生の足止めに苛立ちを抑えきれない彼だったが、どこからか突然聞こえてきた角笛の音、そして彼を待っていた黒馬を駆る神秘的な青年「クーフーリン」。次々と爵の前に現れる不思議な出来事は、やがて彼の知らないはずの記憶を呼び覚ます。
ある晩月影の窓を開いた彼は、ニンフィディアという妖精の世界に入り込んでしまった。ミッドサマーナイトに現れる妖精王は勇者の角笛を支配するという。そして祭りの夜、妖精王の第一の従者クーフーリンが爵の前に跪く。
「爵、あなたが妖精王なのです。」

かつてクーフーリンの主君であり友であった妖精王の息子グィンは、友を信じ切ることができず、ダークエルフに敗れた。グィンの「失った言葉」でできた指輪をクイーン・マブの指から奪い返し、ニンフィディアのみならず人間界を救うことが爵の使命なのであった。相棒で半人前の子鹿プックと共に、爵の冒険が始まる。
友情の強い絆、そこへ入り込む隙もない者達の嫉妬、失われた言葉、盲愛、禍つ星の元に生まれた者の美への悲しいまでの執着など、様々な者の思いがこの美しいニンフィディアの中に錯綜し、爵やエルフ達は旅を通して成長してゆく。
それにしても美しい、花盛りのニンフィディア、塗り絵にしたい程華やかなエルフ達の群(時々中に作者が混じっている)、視覚的にもとても麗しく楽しい。
ケルトの伝説をはじめ、四大の精霊(サラマンダ・ノーム・ウンディーネ・シルフィード)やギリシャ神話、アイヌの神、更に『古事記』の人物まで出てきてしまうファンタジー世界の多彩さには驚きの連続。メリハリの効いたストーリーも登場人物のユニークさも大変魅力的だと思う。特にこの作品の頃の山岸凉子は絵がとても繊細でよく描き込まれた感じがして好きだ。この美しさを堪能するには(手に入れば)できるだけ大きい版がおすすめ。

初出 『花とゆめ』1977年〜1978年


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2008/5/8更新
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