田辺真由美『華夜叉』シリーズ-TanabeMayumi-
秋田書店ボニータコミックス(全18巻)1994年〜2001年

平安の都は華やかにも、そこかしこ、うす暗がりに、妖かしの自由気ままに横行し、夜道に旅人を驚かせ、鬼が人をとって喰らい、狐の子はたあいない悪戯好き、家を守る蛙、付喪神が通りを練り歩く百鬼夜行。時にはとんでもない危害を加えもするけれど、人とはまた別の次元でこの世界に息づいていた。
世にも名高い陰陽師、安倍晴明の恋人は、なんと白狐の統領の姫君。人間を敵視していたお転婆な薔子(しょうこ)姫だが、欲に目が眩むことなく、この世の理を追い求める、人間にしてはちょっと変わった晴明青年に惚れてしまう。晴明は、
「お互いを求め合い愛しむ心があれば、人と妖かし(妖怪)の間に垣などろうか」
と言って薔子と相思相愛になる。

この作品では、妖怪達が普段は人間の姿をして和気藹々としているのに、妖怪に戻った時の「妖怪らしさ」が魅力的だ。私が好きなのはこの点である。時に残酷に人を殺し、引き裂く、その形相のすばらしさ!
しかしこの話では、あやかしよりもむしろ人間の心の醜さの方が恐ろしく、あさましいものとして描かれている。自分の利益の為に弱いものを踏みにじる者への晴明の目は厳しい。逆に彼には、不実な恋人を恨んで死んだ女の悪霊を憐れむ優しさがあった。
しかしまた、自分の心の中にも存在する醜さに苦悩することもある。そんな晴明の側で、薔子もさぞや人間の心の複雑さに驚いているだろう。晴明が現在薔子と恋愛進行中であるにもかかわらず、人の心は月のように満ちては欠けするものだ、と言う気持ちを、どこまで彼女は理解しているだろう。そして、あなたの心が変わってしまったら喰ろうてしまうかもしれないと言う薔子に、
「その時はそのさだめ、喜んで受け入れましょう」
と言うのだ。なかなか見事な愛し方だが、そこまで達観しているわりに自己の醜さに今更気付いたように苦悩するなど、少々おかしな面も有る。しかしいろいろなエピソードを重ねる内に二人の仲は人知の及ばない「運命」「縁」のようなもので結ばれていると思い直すようになってゆく晴明である。
晴明が理屈っぽい割に、その価値観がいま一つ練られておらず、底が浅いのが惜しい。だがだんだん人並みに嫉妬したりなどして恋に心を乱すことが多くなっているのが、人間らしくなって来たといえばそう言えるだろう。

このシリーズはなかなか単行本化されなかった関係で、初めの方が、発表順になっていない。基本的に各話読み切りである。男女の怨恨物を中心に、晴明と薔子が人助けするパターンと、薔子と鬼童丸の晴明をめぐる戦いのパターンで、だんだんマンネリ化してきたと思った第5巻目あたりから、道摩法師との戦いが始まり、それに伴って絵の感じが変わってくる。私は古臭い感じの方が好きだったが、なんとなく出るたびに買っていたら、私としては珍しくほとんど全巻定価で揃えてしまった。世の安倍晴明ブームの波に乗ってか、作者の予想外に続いたのではないかと思われる。
最終巻はハラハラさせられるが、何か良いなあ〜という終わり方。
ところで、りぼんに某4コマまんがを描いているたなべまゆみさんとは同姓同名の別人。

初出 1988年「恋い恋いて」〜(『ミステリーボニータ』秋田書店)


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