高野まさこ『ワルツ』-Takano Masako-
白泉社花とゆめコミックス(全3巻)1990年〜1993年


ルーレ少年の母メロディは、若くして交通事故で他界。愛する妻を失って以来、父アルトは気難しくなり、女性に関わることの辛さにやけになって、ゲイバー“ワルツ”を開く。
不器用だけれど人一倍愛情深いアルトと、勉強は出来ないけれど純粋で素直で、元気なルーレ、二人はどこかすれ違ってギクシャクしている。そんなアルト、ルーレ、ルーレの弟チェロの三人家族のもとに、ある時“ワルツ”の歌姫マクシマという青年が家政婦代わりにやってくる。

「台詞まちがえちゃったな。ほんとに言いたかったのは
 『父さんチェロばかり大切にしないで。ぼく寂しいんだ』だろ?」

アルトとルーレの間の絡まった糸を解きほどいてくれるマクシマの声は、不思議に透明で、硝子ごしに聞くヴァイオリンのよう。
そしてマクシマという大天使(?)を、天国から遣わした(?)、メロディが残してくれた言葉たち、


「幸せってすごいとか特別なことじゃなくて、
  もっとなんて言うのかしら・・・ほら―
  日溜まりでワルツを踊っているような気分。
  穏やかで、満ち足りていて、自由で―・・・」

「クッキーは甘くておいしいから好き。花はきれいだから好き。
  テレビの俳優さんは美男子だから好き。
  でもアルトは、アルトだから愛してるの。
  形容詞なんてなんにもいらないの。あの人だから愛してるの・・・
  大丈夫よルーレ、すぐわかるわ。
  だって人はそれを知るために生まれてくるんですもの」

メロディの愛情は、ルーレやチェロ、アルトの心に永遠に尽きることなく溢れ出る。
あたたかく優しい言葉と絵でこれでもかこれでもかといわんばかりに語りかける愛の言葉の数々は、作者の、読者、更には人類への愛情の深さのような気がする。
強さを伴う底無しの優しさが味わえる。そんなに夢中になれる作品というわけでもないのに、手にとってみるとつい読みふけってしまう。不思議と心惹かれる。

まだ出版されているのかどうか定かでないが、古本屋などで割と手に入りやすいと思う。 同作者の『シュガーベビー』全9巻(白泉社)はもっと気に入っているのだが、これは絶版でかなり手に入り難いと思う。他に作品があると聞かないので、もう描いておられないのかもしれないが、もっと描いてくれたらいいなと思う。

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