竹宮惠子4作一挙紹介

『ファラオの墓』 角川書店他
これは中学生の頃、一番始めに読んだ竹宮作品で、ヒロイン、ナイルのかわいらしさとスネフェル王 のカッコ良さにひかれました。そして人物達の個性。でも、これを読んで、竹宮惠子 はマゾヒストだと確信しました。古代エジプトのお話なので、そんな気持ちの良いさ わやかな設定ではありません。残酷で、人間の命が粗末に扱われていた時代背景が効 果的に描写され、常に不安がつきまといます。
切羽詰まった、余裕の無さ、ヒステリック、もしくは良くも悪くもフル回転ハイス ピードなのが、竹宮惠子の特徴の一つかも知れません。
これは私の勝手な想像ですが、竹宮さんて、感情が先走って、気持ちの赴くまま突っ 走り、話のつじつまを合わせるのに後で頭を使う方なのではないかと思うんですよ。 その点、まず頭の中で、全体を延々と論理的に構成していき、然る後に例の「シー ン」を展開していくように感じられる萩尾望都と対照的な印象を受けます。萩尾さん はその方法でノスタルジアを上手く描くんですねえ。言葉の流れもとても詩的です。 竹宮惠子ははっきり言って詩的ではありません。
でも私はどちらかといえば竹宮さんの情熱にひかれるんですねえ。

『変奏曲』
これは最近までややマイナーだったと思うのですが、今もしかして流行っているのか も?多分竹宮惠子お気に入りの作品じゃないかと思うんです。だから私もお気に入り です。若き天才音楽家ウォルフの演奏に感動し、その音楽的な高みまで追いつきたい と、燃え上がる情熱のままに音楽の道を突き進むエドナン。生命の限界という孤独を 抱えながら、もの静かな表情の下に、またも音楽への情熱を隠し切れないウォルフ。 二人は惹かれあい、時にぶつかりあい、そしてやがて一つの音楽が流れ始める。
エドナンとそのパトロンであるボブが、まるでランボーとヴェルレーヌのような友情 で結ばれているんですね。そこまでに至る間には、本当にランボーとヴェルレーヌの ように激しいぶつかりあいが。
という話やらなにやら、エドナン、ウォルフ、ボブの三人を支点として、角度を変え 手を変え品を変え、様々に物語が織り成されていきます。それはまさしく変奏曲のよ うに・・・。
竹宮さんの作品ではキャラクターがみないきいきしていて魅力的なんですよね。
ところで「椿館の三悪人」のアラン・マーチンて、『ウェディングライセンス』に出てくるマーチン家のアランでしょうか?

『イズァローン伝説』角川書店他
私にとってはちょっと読むのがしんどいんですが、これが一番好きだという人は結構 います。長くて内容が重い。でも話は面白くて読み応え有りますね。ファンタジー、 に分類される架空の世界の話です。そこの人々は皆、子供のときは両性具有で、大人 になると男か女かに分かれます。ところがなかなか分化しないティオキア王子は、地 下に眠っていた魔王にとりつかれ、永遠に人間とは遠く離れた存在として生きていか ねばならなくなります。その悲惨な運命をどのように受け入れればいいのか、ティオ キアも側近達も悩み惑い、苦しみます。ただ一人特殊な信念を持つ側近中の側近、カ ウス・レーゼンを除いて・・・。
その世界とは、ここでは架空の世界ですが、終わり頃には、我々の生きている地球の 世界と重なっている事を暗示させます。
中世ヨーロッパのイメージで服装や建造物、古代遺跡などの描写がなかなか素敵で す。

それにしても竹宮惠子ってネーミングセンスが・・・。私も人の事言えないんです が、どうもすっきりしません。主人公の「ティオキア」はアル・ティオキアっていう のが正式名らしいから、「アンティオキア」から取ったに違いありませんが…。
ちょっと苦しい。人名「カウス・レーゼン」(酒ですか?)、「アスナベル」「ルキ シュ」なんて、いただけません。そもそも「イズァローン」なんて国の名前、信じら れません。「ずぁ」なんてこの世のものとも思えない変な発音を使うなんて(そうい う発音は世界の何処かに有るのかも知れませんがね)、しかもタイトルに使うなん て、あくまで私の感覚ですが、肌にあわないです。よくいますけれどね、その本の中 でしか通用しない固有名詞とかを題名にしてしまう作家って。あれには私は反対で す。題名は本棚から取り出す時まず目にするものですから、もっと一般的な単語の組 み合わせであって欲しいものです。意味不明でもいいから。『ファラオの墓』も ちょっとずれたネーミングだと思いましたが。
・・・「それにしても」以下が長かったですね。

『私を月まで連れてって』 小学館
実は一番好きな作品です。ストーリーが読み切りになっていますから好きなところを 気軽に読み返せます。SF。エリート宇宙飛行士ダン・マイルドが、タイムパラドッ クスでまだ9歳の女の子、ニナ・フレキシブルと恋人同士になってしまうのですが・ ・・。
ニナとダンを巡るちょっと変った人間模様、フレキシブル一家や超ハウスキーパーお ヤエ、ロボットたちその他の、アットホームで時にしんみりさせられるラブコメディ です。
このなんだかんだと言い訳がましい、取って付けたような理屈っぽさは何なのでしょ う。でもそこが味なんですねえ。いいんですよ。これぞ竹宮惠子的、フル回転、ハイ スピード、躍動感、そしてチャーミング!


竹宮惠子のファンクラブHPがあったので、ご紹介しておきます。私が変な説明をす るより信頼性があるでしょう。『地球へ・・・』の解釈など、かなり感心させられま した。
http://homepage2.nifty.com/keikotanfann/
悪口も書いてしまいましたが、そういうところも含めて私、竹宮惠子さん好きですよ。
※『変奏曲』は増山のりえさんという方による原作だとわかりました。


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