遠藤淑子『空のむこう』-Endou Toshiko-
白泉社JETSコミックス(全1巻)2004年出版
両親を風土病で亡くし、幼くして国王となったルーフ。広大な土地が全て彼のものだったが、空のむこうまでは行くことができないと宰相に教えられた。
この国には王と形だけの結婚をし国の為に祈る巫女「シトゥラ」という制度があり、ルーフの代のシトゥラとしてルーフと同じ年頃の少女エーディンが連れて来られた。二人は友人のようにして成長していくが、やがてシトゥラとなるエーディンは、王と婚礼の儀式をし、塔に閉じ込められ、ルーフともどちらかの葬式まで会えないまま一生を過ごす運命なのであった。
ルーフは、エーディンをシトゥラとするのに反対だったが、風土病への不安、天候不順、近隣諸国との抗争で疲弊した国をシトゥラの存在無しに治めるにはまだ彼は若く、何の力も無かった。だがルーフは諦めず、多くの民が死ぬ風土病を克服する薬を作るために、入って出てきた者はないという鍾乳洞へと入っていく・・・。

主人公ルーフのやりきれない思い、静かに運命を受け入れる少女の思い。だが悲しみを通り過ぎ、受け入れることで、ルーフの心は幼い頃からの迷いやためらいをほんのわずか超えた。ドラマチックなどんでん返しがあるわけではなく、そもそもこの話自体が、結局の所インパクトのある大事件が起こるわけでもない(一人死にましたが...ちと「続・11人いる! 東の地平・西の永遠」系の話)。だが、少年の、そういったほんのささいな心の動きをささやかに描いた、端正な物語だと思う。あまり詳しく書くとネタばれになるが・・・好感度は高い。

ストーリーの設定をあまり深いところまで追究すると複雑になりそうな話だが、短編としてうまく切り取って、さりげなくまとまった作品。真面目な顔で繰り広げられる、畳み込むような台詞の応酬のコメディが、遠藤淑子さんの魅力。

この短編集『空のむこう』はおそろしいほどの正統ギャグから始まり、戦国時代、学園、異世界とさまざまな舞台のファンタジー、シリアスもの、エッセイ漫画まで入ってかなり幅広く遠藤淑子さんの作品を楽しめると思うので、紹介してみた。


「空のむこう」初出 ・・・『メロディ』 2000年4月号(白泉社)掲載

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2005/1/4更新
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