水樹和佳『月虹-セレス還元-』-Mizuki Waka-
(ハヤカワ文庫JA)全1巻
西暦2072、世界は第3次世界大戦の危機に陥っていた。地球は荒廃し、地球の2/3が砂漠化し、無気力となった人々の間から、暴徒が現れ、治安も悪化し、荒んだ社会となっていた。主人公ソミューは、アメリカに住むソ連(この話では崩壊しなかったことになっている)から亡命した科学者マーリアの妹で、生まれつき目が見えなかった。そしてどこかに帰りたいという不思議な思いを常に感じていた。しかし、人間とも思えぬ不思議な青年プラズマに出会い、その力で目を開かれてから、不思議な記憶が蘇ると共に、ソミューの知られざる存在理由がわかってくる。
地球は、人類は救われるのか。ソミューの故郷「セレス」は還元されるのか。

世界の終わりに愚かで弱い人間達がそれぞれに、愚かに弱く生きている姿が印象的で心うたれる。中でもたくましく生きていこうとするけれど一人の寂しさをどこまでも体現するマーリアが、痛ましく見えると共にいとおしいと思う。最後のシーンは光り輝いていて素晴らしく悲しい。

漫画でSFを描く際どうしようもないのかもしれないけれど、登場人物達が部屋で座ったままあれこれ会話することで状況説明をしているのに、ちょっと違和感を感じる。また、水樹さんの描く登場人物は皆内向的なのか、動作でもポーズでも表情でも、外に向かっていく生き生きとした躍動感があまり感じられない。でもこの端正なぎこちなさが魅力的でもあって気に入っている。思いを含んだ目つきが好きだな。


初出:『ぶ〜け』集英社1981年


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