山中音和『ロリータの詩集』-YamanakaOtowa-
白泉社花とゆめCOMICS(全3)1996年

私は詩人である
言葉の足りない詩人でした

橘斎(ゆい)は、冷たい言葉で人を傷付けたことがある。その時から「言葉」に対するコンプレックスを持っている。
ある時、転校するという幸村が、斎に思いを綴った手帳をくれた。しかし手帳は読まれないまま燃えてしまった。二度と受け取ることのできない、燃えてしまった言葉。その時から斎は詩を書き始める。

クラスになじまず、怖がられながらマイペースで生きる斎。冷たいと言われながら、自分でもそう思いながら、嘆くことも無い。まるで痛みに対して鈍感であるかのように。
「でも雪じゃない」
降矢先輩は言う。
「おまえは雪じゃない。でも雪みたいな反応する。
ホントにあったかいものに敏感だね」

ダイエットで飢えているモデルのまりあ。親友を失ってもブラジルを目指すサッカー少年椎名。恋人を言葉という鎖で縛った砥上。皆それぞれ傷付きながら、様々な言葉を吐き出す。そんな人々との出会いの中で、斎は失った言葉達を取り戻していく。

斎やその周辺の人々は、平均的な社会からのはみだしものである。斎は変化してきてもやはりクラスの女の子達とは馴染まないし、クラスの子達はやはり斎が理解できない。しかし斎はそんな自分に対しても、クラスメイトに対しても、否定も肯定もしない。今自分が在る場所で、自然に生きていくだけだ。自分の生命力を信じて。

端正な絵で、一見とてもクールだが、とても熱いメッセージを持った作品だと思う。
斎は熱い思いを淡々と、少ない言葉で、でも確実に言葉にして放つ。
あなたはここからどんなメッセージを受け取るだろうか?

初出 『花とゆめ』1994年〜1996年


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