加藤四季『お嬢様と私―たなぼた中国恋愛絵巻』-Kato Shiki-
白泉社ジェッツコミックス(全3)2005年

タイトルからはどんな話か想像しにくいだろうけれど、中国漢の時代、宣帝(劉詢)とその皇后許平君を主人公にした歴史四コマ漫画である。
もともと宣帝は祖父、父の失脚のせいで皇族から民間に降ろされた人で、自分の出自も知らず下級役人許家の使用人として働いていた。その仕えていた家のお嬢様が許平君。彼女は婚約者に死に別れた未婚の未亡人で、権力欲旺盛で大変がめつい十五歳の女の子。白玉と呼んでいた召し使いが皇族とわかると、恋愛感情一切無しで白玉をはめ、妻の座に。
やけに使用人っぽい貧乏な竪穴式住居に住む劉詢(白玉。のちの宣帝)だが、血筋が血筋だけに、実は皇位継承第3位。帝の死後なんだかんだで皇帝にまで上りつめ、妻の許氏は皇后に。

私はこの辺りの歴史には詳しくないのだが、大まかにいって歴史の通りの筋だと思う。
このがめつくたくましい許平君ももちろん実在の人物。でも、白井恵理子さんの漫画では妖怪に惨殺される可憐な美女だったりする存在なだけに、どういう結末になるのか結構心配だった。
宮中は自伝やグラビア写真集を出版する許皇后を中心に、幼児ばかりの後宮、コスプレマニアと化した超お嬢様霍成君(帝の妻ナンバー2)、元刺客張賀、女装趣味の匈奴征伐隊小隊長張彊(張賀の息子だが実在せず、ベルばらで言うオスカルみたいな存在かな)、人体筋肉フェチの女医淳于衍、そして陰は薄くなって行くが子供(宮女)達にモテモテのいい旦那劉詢(帝) 等々、結構あほらしい人物関係で和気藹々やっているわりに、 陰謀渦巻くどろどろの政権争いはちゃーんと展開していて、四コマ漫画とは思えぬドラマチックで濃いストーリー性を感じさせる。

そして私が感心するのは、彼等の潔さである。
大抵ギャグマンガではコミュニティの結束が強く、その仲間意識に読者を引き込んで一緒に楽しむのが醍醐味だったりするのだけれど、「お嬢様と私」の世界では、仲間の関係が崩壊するときは思い切りよく崩壊し、人が死ぬ(消える)ときは思い切りよく死に、そこに一瞬悲しみを生じさせても、敢えて許皇后という生き生きとした存在が、センチメンタリズムを煙に巻くように吹き飛ばしてしまう。いいシーンになりそうなのに、ぶちこわして金の換算を始める許氏一族には、ここまでくると意地汚いというよりも気持ち良いくらいの潔さを感じる。

最後の最後まで潔い許皇后には、なんだそれはーという結末が訪れるがそれは読んでのお楽しみ。(最後に近付くとおちは見えてくるが)
ただ、「お嬢様と私」と言いながら、許氏は途中から「皇后、皇后」と呼ばれる身となってしまい、「お嬢様」でなくなってしまったのが一点残念だった気もする。もちろん皇后になったら許皇后と呼ばれるのが当然だが・・・許氏は最後まで陛下にとっての「お嬢様」であって欲しかったのだけれど。(陛下が最後涙ぐみながら振り返って言う言葉は「お嬢様」であるべきだ!)

とっても魅力的なキャラクター達に思わず吹き出すとっておきの歴史ギャグ漫画。書店で見つかりにくかったら、四コマ漫画のコーナーに有る場合も多いので、注意して探して見てください。


初出 『メロディ』1997年〜2005年


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2005/4/30更新
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