ざ・忍者!

私は幼い頃忍者というものに憧れていた。忍者は強くて軽やかで美しい。そんなイメージだったのだ。 アニメの「忍者ハットリくん」を見てから忍者になりたくてなりたくて夢にまで見ていたくらいである。 自然になんとなく忍者の出てくる漫画が好きだったが、私が好きなのはあくまで少女漫画的な忍者であって、その他は知らない。忍者の陰鬱で残酷な面は嫌いなので、本当の忍者好きとは言えないのだろう。しかし、いくつか愛読している忍者漫画があるので、ご紹介してみよう。

●尼子騒兵衛『落第忍者乱太郎』朝日新聞社1〜31
以下続刊
少女漫画ではないかもしれないが・・・浪人時代、予備校から帰ってくる時間に丁度アニメをやっていたので見始め、最近漫画のファンになった。朝日小学生新聞に連載されているようである。時は室町後期、忍術学園1年は組の忍者のたまご(略して忍たま)乱太郎、きり丸、しんべえの落ちこぼれ3人組は、野盗や悪どいドクタケ忍者と戦ったり、人助けをしたり、戦に巻き込まれたり、といつも大騒ぎ。作者が日本史を専攻しただけあって、かなりよく時代考証がなされていると評判である(しかし忍術学園の存在自体がなんだか・・・)。当時の風俗や忍術、武器についてとても詳しいので、コマの背景、通行人の服装や様子を注意して見るのも楽しい。だじゃれがしつこいくらい出てくるのもいい味。単なるギャグマンガではない、どこか雅な雰囲気の有る忍たまワールドを是非味わってみてはいかが。1年は組は落ちこぼれでも、皆よいこ達である。
ところで私は1年は組の喜三太がお気に入り。「はにゃ〜」という顔の可愛らしさ。担任で教科担当の土井先生もいい味出している。は組のあほさ加減に神経性胃炎をおこしたり、町内会の主婦に叱られたりと、なさけない姿をみせる一方、さすが先生、と思わせるしっかりしたところが有ってすてきだと思う。

●樹原ちさと『かん忍!!茜』 集英社りぼんマスコットコミックス(全4)
東茜は化学の教師を父に持つ、ごく普通の高校生、・・・ではなかった。実は茜は服部半蔵(の隠し子)を祖先に持つ忍者の末裔。代々忍者であることを隠しながら修行を重ね、現代に至っている。茜も忍者になるべく父鉄太郎に鍛えられる。母親はそんな夫と子供を置いて、茜が幼い頃家を出てしまったらしい。しかし茜は恋も部活もしたい年頃の女の子。いろんな騒動を起こしてしまう。
まぬけな性格で人には馬鹿にされるが、悪に立ち向かう正義感の強さが魅力的。
ストーリーは中途半端で、あまり上手い展開ではないと思う。だが、ところどころ出てくるくだらないギャグがとーっても笑える。面白い。この漫画の中にあってこそ効いている。


敵   「おまえ達は伊賀忍者か、甲賀か・・・?」
父&娘   (黙秘。)
敵   「質問を変えよう。栗としじみはどっちが好きだ?」
父&娘   「栗」
敵   「ふふっ・・・。おまえたち、イガ者だな」
父&娘   「しまった!」
・・・シリアスに青ざめないで・・・。

●岡田あーみん『こいつら100%伝説』 集英社りぼんマスコットコミックス(全3)
岡田あーみんの面白さについてはりぼん派には説明するまでも無いかもしれない。人前では読めないくらい面白くて。要注意。
忍術の先生のもとに弟子入りしている極丸(きわまる)、満丸(まんまる)、危脳丸(あぶのうまる)の三人は、それぞれとてもくせのある困った弟子達。或る日、白鳥城のお姫様が、家臣に連れられ、人目を避けてやってくる。刺客から姫を守って欲しいという依頼だった。しかし姫に一目ぼれした3人のあまりの変態ぶりに、家臣は考え直し、他をあたろうとするのだが、なんだかんだで結局3人は襲われそうになった姫を助け、晴れて姫の護衛を仰せつかることになるのであった。
態度が大きく、マイペースでクールな極丸、カワイイが全然忍者に見えない泣き虫の満丸、名前通り異常なアクションをとり、キザで異様なセンスの持ち主危脳丸、そして彼らのペースに巻き込まれキャラが壊れてしまう先生、みんなどこが忍者なのかというと・・・あれで何故か強いところと、お姫様を助ける為には命をも投げ出す純情さ(単純とも言う)、その辺が忍者をやっていられる秘訣かも。
私は、一番変態扱いされる危脳丸が3人の中で実は一番まともな感覚を持っているのかもしれない、と思うのだがどうだろう。他にも変なキャラはわんさか出てくる。

●楠桂『妖魔』集英社りぼんマスコットコミックス(前・後)1986年
戦国の世。緋影(ひかげ)は忍びの里を抜け、旅に出た。幼なじみの彼に怪我を負わせ里から抜け出した魔狼(まろう)を連れ戻す為である。緋影はある村で顔にあざの有る少女と出会う。名前はあや。不思議なことに過去のことを何も覚えておらず、顔のあざのことも気にせず明るく笑う可憐な少女だった。しかし、村には恐ろしい妖怪の影が・・・。
この村を後にして、緋影の人間に復讐しようとする妖怪達との熾烈な戦いが始まる。魔狼の正体は、そして彼らの友情の行方は・・・?!
戦国のすさんだ世に生きる忍び。妖魔は人間のすさんだ心から生まれ、人間を食い殺す。そして魔に食われた魔狼。緋影は彼を殺すことができるのか。彼の魂を救うことはできるのか。
女の恨みと妖怪を描けば天下一の楠桂。おどろおどろしい雰囲気と、独特の哀しさ、あわれさに満たされた、闇の物語。
とても魅力的な女性が沢山出てくる。結構残酷な物語で下手なホラーよりずっと怖い。特に昔の楠桂の画風は本当に怖い。だが同時に古風な美しさとロマンチシズムがある。りぼんっ娘だった私だが、子供心にも憧れた作家である。
(初出1985年〜1986年『りぼんオリジナル』)


●亜月裕『伊賀野カバ丸』(全12巻+外伝2巻)集英社マーガレットコミックス1980年
集英社文庫(全4巻+外伝2巻)1997年

祖父を亡くした忍者・伊賀野カバ丸が、山を下りて金玉(きんぎょく)学園に転校して来た。学園長大久保蘭の初恋の人の孫で、彼女に大変可愛がられる。カバ丸は人間離れした食欲と超人的な身体能力を持ち、すぐに学園のヒーローとなるが、学園長を始め皆が彼をかいかぶり、正義感強い優しい人物と思い込んで多大な誤解をしていることに気付かない。カバ丸の野蛮で下品で単純で自分勝手でいい加減で強欲な正体を見破っている人さえ、周りの勢いに圧倒されて自分が間違っているのではないかという気がしてきてしまうのが笑える。皆がそのように見ている中、学園長の孫大久保麻衣は粗野なカバ丸を嫌っていたが、やがて彼の意外に純朴な優しさを身にしみて感じるようになる・・・。という話。
カバ丸指導の体力作りの会と称した山ごもり修行、他校との駅伝大会や、金玉を中心とする諸星連盟とそれに反発する王玉高校との野球対戦など、はちゃめちゃイベントがもりだくさん。幼い時からカバ丸と共に山で厳しい修行をしていた疾風(はやて)や、金玉学院の陰の支配者目白沈寝(しずね)など、個性的で魅力的な人物がたくさん登場。一筋縄でいかない忍者・カバ丸が世界中を巻き込み大騒ぎ。それにしてもここまで強烈だと憎めない・・・。そしてカバ丸の子供時代がかわいい。

(初出『別刊マーガレット』1979年8月〜)
続編:「伊賀野こカバ丸」集英社全4巻

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