大橋薫-Ohashi Kaoru-
好きというか気になるホラー漫画家の一人。絵は端正で、双子の姉妹、楠桂の絵と似ているが、雰囲気がちょっと違う。最初に読んだ時とても印象深かったのだが、人間の心の弱さをしつこく描いている。そのしつこさがいい。話の筋はいつもお決まりのパターン、という印象はあるけれど、残酷な殺戮シーンや無惨な死体の絵が恐い。端正な分恐い。ただちょっと全体的にインパクトが弱いのではないかなと思う。恐いシーンや感情の爆発シーンのインパクトが強いのに反して、肝心な話の帰結の部分で表現があっさりしすぎて、ちょっとわかりにくい。最後のシーンもいまひとつ視覚的なインパクトに欠ける。
でも、ごく普通の人間が妬み、呪い、恨みを激しく噴出させる姿がとても見事に表現できていて、「私が悪いんじゃない」と言い自分を守ろうとする人間の苦しさ、弱い人間特有の苦悩をよくわかってる気がする。そしてその言葉をなんと、主人公にまで言わせるのだ。主人公の好感度を下げると、普通なら漫画の魅力はがた落ちだ。だがその危険を冒して尚読者の気持ちを引き込み、共感させてしまう。これに関してここまで描ける漫画家はあまりいないかもしれない。
私はホラーでも、正直な人が損をしたり、理不尽に不幸な目に遭わされたりして、結局救いの無いものはあまり好きではない。現実にはしばしばそういうことも起こっているのかもしれないが。でも、同じ救いのない結果で終わっても、大橋薫の話で納得いかない事が無いのは、おそらく当然の結果としてこのような終わり方をしていると感じざるを得ないから。
私は、人が人を妬んだり恨んだりするのには、本人にとってそうせざるを得ないものが有ると思っている。でも、だからといって人を傷つけていい訳はない。心で思うことには責任が無いけれど、行動には責任が有る、ということを聞く。行動を起こしてしまうのが仕方のない事だとは思わない。でも、それでも理解できてしまう自分自身の心の葛藤が、この漫画を読んでいるとしょっちゅう起こって、揺り動かされるのだ。この主人公達の弱さの中に、人間性を見つけ、そして悲しさを感じさせられるのだ。

作品
「レミングの行方」「セルロイドカーニバル」など

大橋薫、楠桂のホームページ
http://www.ngy1.1st.ne.jp/~k2office/


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