茶木ひろみ『かのこ』-Saki Hiromi-
マーガレットコミックス(全2・1984年集英社)
父のいない小学生のみずきは、母の入院の間叔母夫婦の家で世話になることになった。そこには両親が亡くなった少女、加乃子が同じように引き取られていた。
夢見がちだが頑固なみずきは、会ったばかりの加乃子と喧嘩をして以来、彼女と口をきかなくなっていた。しかし、一緒に中学に進学してから、みずきと加乃子の人生は大きく動いていく・・・。

みずきの屈折した心、親戚とは言え他人の子供を育てる叔母夫婦の心境など、人の心情を非常に繊細に捉えた、意外性の有る、ちょっと変わったラブストーリー。

茶木ひろみの作品は、世間の残酷さをきちんと描きながら、それでいて、人間の弱さと善をとても強く主張する。たとえば、しっかりした兄と、手のつけられない不良の弟という世間の評価は誤解で、実は逆だった、といった設定の話でも、兄も弟も両方悪者のままでは終わらせない。ここに和解があり、そして兄に対する同情と救いが有る。
どの作品も、大抵何らかの屈折やトラウマを抱えた人物が登場し、世間が彼を理解する難しさをさんざん見せ付ける。そして主人公の女の子は根が素直で、健気だ。大筋がありふれていたとしても、物語の進行がありふれた感じがしない。常に新鮮な感覚が有る。そして、笑える描写が多い中に、とても「せつない」雰囲気が流れている。これがいいんだなあ。

この作者は多分情熱家で、憎む時は徹底的に憎いと感じながらも、結局は最後まで憎みきれない人なのかもしれないと思った。絶版になっているが、古本屋でよく見かけるので紹介してみた。
茶木ひろみの作品は全部は読んでいないけれど、どれもおもしろいので、「かのこ」がみつからなくても他の作品が有ったら読んでみて。


初出:『別冊マーガレット』1983年9月号〜1984年2月号


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