大和和紀『はいからさんが通る』-YamatoWaki-
講談社KCコミックス(全7巻+別巻1)1975年〜ほか

世は大正デモクラシー。平塚らいてう等によって、男女同権の叫ばれだした時代。
元旗本の家の一人娘、花村紅緒は花の女学生。ブーツに袴姿で、慣れない自転車を乗り回し、すてきな男性との大恋愛を夢に見て、同級生で元華族の環(たまき)とともに、はいから街道まっしぐら。
木の上から落ちた紅緒を抱き留めてくれた一人の青年将校、ハーフのどハンサムだが、笑い上戸で気にくわないと思いつつ連れ帰ってみたら、なんと親同士の決めた許婚だった。かれ伊集院少尉は、祖母の「われても末にあわむとぞおもふ」(※)という夢を叶える為にこの結婚を望んでいたのだ。紅緒は大反発し、破談にしようと手を替え品を替え暴れまわる。しかし敵も手強く大苦戦。
そうこうしてるうちに、時代の波は容赦なく彼らの上に押し寄せてきて・・・。

紅緒は美人ではないが明るくたくましい女の子。絵に描いたようなガサツさで、女らしい態度や料理裁縫は苦手だが、剣の達人であり、正義感が強く、情にもろい素直な子だ。そんな並外れた魅力を持つ紅緒は、少尉をはじめ幼馴染の女形、美少年の蘭丸、勤め先の出版社の編集長、青江冬星氏、少尉の元部下で満州馬賊の頭「黒い狼」と、いろんな男達にモテまくる。紅緒ばかりが何故もてるのか、というと、この男達、いい男だけど一癖も二癖もあるという人ばかりであるからして・・・(?)
酒乱の紅緒の暴れぶりも見ものだが、一方で、帰ってこないかもしれない少尉を何年も待ち続ける一途さと、自分の権利だからと言って人の幸せを奪い取れない優しさには、ジンとさせられるものがある。一見ギャグマンガのようだが、ストーリーはシリアスだ。

また、ロシア革命の余波での、日本のシベリア出兵、政府による思想弾圧、時代についてゆけずに落ちぶれる元華族の姿など、当時の世相を良く表わして、うまく話の中に組み込んでいる。
丁寧なストーリーの構成と、素直で華やかなタッチの絵は、大和和紀らしさを出しながら、少女漫画の王道をゆくと言っても過言ではない。


瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあわむとぞおもふ(崇徳院。百人一首に)
少尉のおばあさまは、紅緒のおじいさんと恋仲だったが、それぞれ公家と旗本、幕末の動乱の中敵味方に分かれてしまい、添い遂げることが出来なかった。出生にかかわらず結婚できる時代になったら、お互いの子孫で血縁を結びましょうと約束したらしい。


初出 1975年〜1977年『週間少女フレンド』


戻る

inserted by FC2 system