姫でございま〜す

わらわは姫。某大納言家の娘にて、いりなと呼ばれましてござりまする。
後ろに見えまする「非常口」なる扉は、わらわの住む京の都に通じておりまする。

わらわの着物は、十二の御衣と申し、緋の長袴、ひとえ、五つ衣、うはぎ、打掛、唐衣と幾重にも重ねたる、正装でございます。
とても重うございまして、かよわきをみなにしあれば、動き回ることもままなりませぬ。
なんでも、あわせて十五きろぐらむほどの重さとか。右手にあこめ扇、左手に懐紙もて、おもてを隠しまする。
これをわらわに着せまするは、二人がかりにござります。「前の衣紋(えもん)者」「後ろの衣紋者」と申しまして、前の衣紋者は、やむごとなきわらわに息をかける無礼の無きよう、跪いたまま立ち上がりませぬ。
はじめ一枚一枚交互に前をあわせて着せまするが、かさねの色目が見えるよう、最後に数枚ずつ交互にあわせまする。みごとな手さばきにござりまする。
前からはよくわかりませぬでしょうが、後ろに長い裳をつけておりまする。

そうそう、在原業平どのより、わらわの「ほおむぺえじ」開設にあたり、歌を頂いたのでございました。在中将どのとは折にふれ「めえる」を交す仲でございます。

くといふ
みがことばの
たなくも
なさくときを
だまちをらむ

在原業平詠歌)
<平成語訳>
こうだ、と言われる(「核」についてなんだかんだおっしゃる)あなたの不器用な言葉が、人に知られることなく花をつけるその蔦葛(ツタカズラ)のように、人に誉められなくともご自分の満足のもと咲き誇れる日の来るのを、ひたすらお待ちしていますよ。

皮肉な御方でござりまする。




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